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下水班

微生物を高度利用した
下水処理システムの開発

SDGsゴール6 “すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する” に示されているように開発途上国における下水処理の問題は依然深刻な状況のままです。下水処理普及の妨げになっている原因は、施設設置にかかる莫大な費用、標準活性汚泥法の運転に必要な電気代、余剰汚泥処分費用、適切な運転を行うための技術継承など多くの問題を有しています。また、日本をはじめとした開発国においては下水処理施設の老朽化と人口減少による需要の減少など、従来型の下水処理システムについて再考する時代に差し掛かっております。本研究室では、標準活性汚泥法に変わる新しい下水処理システムとしてスポンジを微生物保持担体として用いたDown-flow hanging sponge (DHS)の法の開発と世界展開に取り組んでいます。

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DHSリアクター (長岡中央浄化センター)

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開発途上国の事情に適合する下水処理技術に関する研究

従来型の下水処理法標準活性汚泥法では、設置に多額の費用と時間が必要です。また、これまでODA事業などによって開発途上国に整備された下水処理方法は、事業終了後に資金不足に陥りメンテナンスされることなく機能を失う例が多く報告されています。そのため、低コストで持続可能な下水処理システムとDHSリアクターの開発に取り組んでいます。DHSリアクターは、スポンジに億から兆レベルの数の微生物を住ませることによって活性汚泥より10~15倍の汚泥濃度を維持しながら、下水を浄化していきます。また、散水ろ床法と呼ばれる処理方法で”上から水を流す”だけで空気中の酸素を排水に取り込み、従来法で必要な曝気を省力化できます。これまで、インド、エジプト、タイ、マレーシアなどで実規模試験を行い社会実装に向けて開発を取り組んでいます。また、海外で得られた知見をもとに国内の下水処理技術として導入ガイドラインの策定を行いました。他にもDHSリアクターのみならずmembrane bioreactorやrotating biological reactorなどの研究も行っています。

 

実規模DHSリアクター(エジプト·ボルグ·エル·アラブ)

(東北大学·香川工業高等専門学校·木更津工業高等専門学校·長岡工業高等専門学校·新潟薬科大学·E-JUSTとの共同研究)

世界最速の下水処理システムの開発

タイやマレーシアなどの亜熱帯域では、降水量が多く合流式の下水道を採用している場合が多く、下水濃度が他の地域と比べて低濃度です。また、温度が一年中高いため微生物も高い活性を示します。現在、バンコクなどの都市部のみならず地方都市でも地価の高騰が起きておりこれら国々で下水処理法として用いられているラグーン法 (Lagoon)に充てる用地も少なくなってきています。本研究では、熱帯域に適用可能な世界最速の下水処理システムの開発として、タイ王国コンケン市にパイロットスケールのDHSリアクターを設置し、約10年間の実証試験を行ってきました。10年の実証試験ではスポンジ担体の摩耗は見られず、安定した処理性能を示しています。2018年からは、これまでDHSリアクターの建設にコンクリートを用いていましたが、ステンレスを用いたパッケージを設計し、約2週間で設置工事が完了できるコンパクトなシステムとしました。現在、社会実装に向けてタイ王国·コンケン市とマレーシア·コタキナバル市で実証試験を行っています。

(コンケン大学·株式会社NJS·三機工業株式会社との共同研究)

  1. Kirishima, Y., Choeisai, P., Khotwieng, W., Hatamoto, M., Watari, T., Choeisai, K., Panchaban, P., Wong-Asa, T., & Yamaguchi, T. (2021). Efficiency of high rate treatment of low-strength municipality sewage by a pilot-scale combination system of a sedimentation tank and a down-flow hanging sponge reactor. Environmental Technology, 1-10.

  2. Watari, T., Kirishima, Y., Choeisai, P., Harada, H., Kotcaron, W., Matsueda, T., Tanaka, N., Kawakami, S., Hatamoto, M., & Yamaguchi, T., (2022) Performance evaluation of quick and compact package-type down-flow hanging sponge system for domestic sewage treatment, Journal of Water Process Engineering, 47, 102798. 

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スポンジ担体の特性を活かした一槽型窒素除去システムの開発

従来型の窒素除去プロセスは硝化反応と従属型脱窒反応を組み合わせた方法が広く用いられているが、硝化に必要な酸素供給や脱窒反応に必要な有機物源の供給など高コストな例が多く実用化の壁となっています。Anammox反応は、独立栄養細菌がアンモニウムと亜硝酸を窒素ガスに転換するプロセスで近年、オランダや中国などで実用化に向けて研究されています。本研究では、DHSリアクターで使用するスポンジ担体中で、表層は好気、スポンジ内部で嫌気·無酸素状態になる特性を生かし、一槽型の窒素除去プロセスの開発に取り組んでいます。人工排水を用いた実験では、90%のアンモニウムと50%の全窒素除去率を達成しました。現在は、下水のみならずさまざまな産業廃水への適用に向けて研究を行っております。

一槽型DHS-Anammoxリアクター (デルフト工科大·UNESCO-IHEとの共同研究)

  1. Watari, T., Vazquez, C. L., Hatamoto, M., Yamaguchi, T., & van Lier, J. B. (2021). Development of a single-stage mainstream anammox process using a sponge-bed trickling filter. Environmental technology, 42(19), 3036-3047.

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